アスラン編集スタジオ

書店地図を訪ねる 第1回 −自由が丘−

Nendai Watanabe
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「住みたい街ランキング」では常に上位をキープし、
文化人も多く住むと言われる自由が丘。
その書店をめぐる現状とは──。

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街を歩くときは、どうしたって書店に目が向いてしまう。いい書店があるだけで、街全体の評価も甘くなる。
上京してから、5つの街に住み、4つの街に勤務した。常に書店環境に恵まれていたとは言い難いが、記憶に残る書店はいくつかある。
散歩のついでに、そんな「街の書店」が今どうなっているかを調査したいと思う。できるだけ、どの書店でどんな本を買ったかを思い返しながら。かつて本を買ったことのある書店が、堅調に営業を続けていればよいのだが。

***
東京都目黒区自由が丘。目黒区内に2000年〜2008年まで住んでいたから、少しなじみのある街だ。
2007年発行の『文庫版 東京 都市図』(昭文社)を見ると、駅周辺には6書店の表記がある。駅正面口から西寄りに不二屋書店、青山ブックセンター、高級スーパー・ピーコック内の三省堂書店。北側に自由書房、東には東急ストア内書店、そして駅南口すぐ前のブックファースト(地図参照)。駅を中心に、適度な書店包囲網が成立している。
ところが、だ。2012年発行『街の達人コンパクト』(昭文社)では、不二屋書店とブックファーストを残すのみ。たった数年の間に、結構さみしいことになっているではないか。

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不二屋書店の安定感

久しぶりに自由が丘を訪ねると、駅前が新しく整備されていた。ロータリーの真ん中にあった「自由の女神像」が、ちょっと脇に移動されている。その女神像のすぐ先にある不二屋書店は健在だ。
不二屋書店。自由が丘書店界の砦。
不二屋書店。自由が丘書店界の砦。
こぢんまりしたお店で、2階にも売り場があるものの品数は決して豊富とは言えないし、いつも混雑しているので、人とすれ違うときにもストレスを感じる。が、それらを不問に付すだけの魅力が、この老舗にはある。
第一に、置いてある本のセンスがいい。「渋谷で見つからなかった本が、ここに来たらあった」なんて話もうなずける。
カバーデザインも素晴らしい。ここで買い物をすると「自由が丘で本を買った」という手応えがある。だから、自由が丘では、何はともあれ不二屋書店から流すことになる。
もし、不二屋書店が消えるようなことがあれば、自由が丘は大きな転換期を迎えることになるだろう。そして私は自由が丘という街に失望するだろう。

不二屋書店。自由が丘書店界の砦。

不二屋書店。自由が丘書店界の砦。

青山ブックセンターの無念

続いて向かった青山ブックセンターは、やはりなくなり、TSUTAYAになっている。調べると、2009年限りで閉店したことがわかった。青山ブックセンターは、もともとは現在ブックファーストがある場所で営業していたのだが、第三者の破産申し立てにより閉店。その後、営業を再開し、芳林堂書店が閉店した跡地に再出店した経緯がある。つまり、00年代のうちに二度の閉店を余儀なくされたわけだ。

青山ブックセンター跡地のTSUTAYA。

青山ブックセンター跡地のTSUTAYA。

続いてピーコックへ。ピーコックで本を買った記憶はない。4階まですみずみをチェックするが、中にはユニクロがあるばかりで、書店は見あたらない。最初から書店などなかったような気がしてくる。

ピーコック。書店は影も形もなく……。

ピーコック。書店は影も形もなく……。

再び引き返し、自由書房の跡地を見ると上島珈琲店になっている(2006年に閉店した模様)。ここでは、後藤正治の『スカウト』(講談社文庫)を購入したのを鮮明に覚えている。文庫化されて間もなくだから、2001年の春ごろか。
タイトルとカバーを見て、正直おもしろそうに思えなかったが(失礼!)、「まあ、野球好きだし」と購入。プロ野球広島カープの老スカウトを追ったノンフィクションで、ほとんどのページはスカウト活動の徒労だけを描写する作品である。叙情性のある文体と題材の選び方、光の当て方に驚愕して以降、後藤作品にのめり込むきっかけとなった印象深い1冊だ。
のちにカープファンになったのも、この作品が多少とも影響しているかもしれない。

自由書房の跡に入ったのはコーヒー店。

自由書房の跡に入ったのはコーヒー店。

そしてブックファーストが残った

東横線の高架をくぐり、大井町線の線路を渡り、東急ストアへ。当然のように、書店は消えている。大きめのスーパーにはいろんなテナントが入っているけど、いまや書店の優先順位は、そうとう低くなっていると思わざるを得ない。
最後に南口に回って地下にあるブックファーストへ。アート関連や雑貨の本が目立つ。ライバル店が相次いで閉店する中、自由が丘文化の「旗艦店」役を担おうとしているのか。
こうして見ると、書店が2店というのは少し物足りない(ヴィレッジバンガードや古書店はあるが)。でも、これから新規に出店するのは困難なのだろう。
そう言えば、書店で購入した本を持って通ったカフェがあった。大井町線沿いのケーブルカーコーヒー。駅近なのに比較的空いていて、天気のよい日はテラス席から電車を眺めるのが格別だった──と思いながら行ってみると、なんと閉店(2010年)! 街の移り変わりを改めて実感したのだった。

PROFILE
1975年生まれ。栃木県佐野市出身。慶應義塾大学文学部卒。
出版社→フリーター→出版社勤務を経て、2007年アスラン編集スタジオに参加。
ライティングと編集に携わり現在にいたる。

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