アスラン編集スタジオ

書店地図を訪ねる 第2回 霞ヶ関〜赤羽橋(2002-2013)

Nendai Watanabe
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2000年の春。仕事の関係で、霞ヶ関の郵政省(当時)に訪れるようになった。 当時は、私のような民間人でも、比較的自由に省内に出入りできた。アメリカ同時多発テロ事件の前年である。郵政省は、郵政事業庁→日本郵政公社→日本郵政グループへと変化。郵政とのかかわりは公社時代の末期まで続くことになる。霞ヶ関で用を済ませた後は、桜田通りを歩いて職場まで帰る日もあった。そこで再び、このルートを歩いてみようと考えた。 さて、当時の書店はどうなっているだろうか。 *** 冬一番に冷え込んだ朝、東京メトロ霞ヶ関の駅を下りて、まず向かったのは霞が関の政府刊行物センター。各種白書、統計書、法令解説書など、政府刊行物を専門に扱う書店だ。

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(写真1)
政府刊行物センター跡地

しかし、店舗があったはずの建物はもぬけの殻(写真1)。張り紙が貼ってあり、「平成25年4月に虎ノ門に移転した」とある。 移転先は、たしか文教堂が入っている日土地ビル。どういうことだろうと思いつつ、とりあえず虎ノ門方面に向かう。 途中、日本郵政の本社に入ってみる。1階は郵便局とサンマルクカフェが営業しているパブリックなスペースだが、よその会社に無断で浸入しているような居心地の悪さを感じるのみ。そそくさと退散する。 道路をはさんで、真向かいが日土地ビルだ。まずは、ここの1階にある書店・文教堂から見ていこう…… と思ったのだが、なくなっている! 官庁街の書店らしく、政治や行政関係の本が充実していたと記憶する。この店は官庁に勤務する人々に支えられて安泰だと勝手に思っていた。跡地には眼科、歯科、薬局などが並んでいて、書店があったことが想像できないくらいだ。 同じフロアの奥に、移転した政府刊行物センターがある(写真2)。ひととおり店内を見てまわると、これが結構面白い。最近はインターネットで資料を検索する機会が多かったけれど、政府刊行物もあなどれないと再認識。『地理統計要覧2013年版』(420円)を購入する。しばらくこれで楽しめそうだ。

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(写真2)
政府刊行物センター

*** 虎ノ門交差点を渡り、桜田通りを南下し、神谷町方面を目指す。途中、急にビルがなくなって、視界が開ける。虎ノ門から桜田通りを新橋方面にぶちぬき、有明までつなげる環状二号線の工事だという。新橋側を見ると、巨大なビルがそびえている(写真3)。

(写真3)虎ノ門ヒルズ

(写真3)
虎ノ門ヒルズ

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あとで調べたら「虎ノ門ヒルズ」だとわかる。そんなものが作られていることすら知らなかった。桜田通り側から見ると、虎ノ門ヒルズの下にぱっくりと口が開いており、その中に環状二号線が吸い込まれていくように見える。ところで虎ノ門2丁目にはかつて虎ノ門書房があったのだが、あまり記憶にも残っていないため、跡地にも気づかず通り過ぎてしまう。10年間の街の変化にほとんどついていけていない。結局、本題である書店にはほとんど触れないまま、あっけなく地下鉄日比谷線神谷町駅に着いてしまう。駅に直結する地下街の案内板に「神谷町書店」という文字を発見した。老人が店番をして雑誌などを細々と扱っていたのを覚えている。無事だったのか、と思って地下に降りてみると、そこは無人と化していて、自販機が無造作に数台置かれているだけ(写真4)。かろうじて「神谷町書店」の看板が残り、「書店」の部分が缶コーヒーの広告で隠されている。本は売れない→かといって飲食店をやるだけのスペースはない→とりあえず自販機を置いてみた、という思考回路が透けて見えるようなせつない空間だ。あの老人はどこへ行ったのだろう。 神谷町の駅地下には、もうひとつ「かんな書房」という書店があったのだが、現在はドラッグストアになっている。そう言えば、桜田通りからは外れた、テレビ東京のある城山ガーデンにブックファーストがあったはず。このブックファースができた影響で、かんな書房が撤退したのだった。地上に出て、ゆるやかな坂を上りながら、ブックファーストへと急ぐ。とにかく書店を見たいという思いからか、早足になっている。……だが、そこで営業していたのはブックファーストではなくカフェだった(写真5)。

(写真4)神谷町書店は自販機コーナーに

(写真4)
神谷町書店は自販機コーナーに

(写真5)旧ブックファーストのカフェ  

(写真5)
旧ブックファーストのカフェ

なんということだろう。ということは、神谷町駅周辺には書店がなくなってしまったのか……。落胆しながら再び駅前に戻ってみると、TSUTAYAが営業しているのに気づいた。このTSUTAYAの店内はスターバックスに直結している。2階もあるので、かつてのブックファーストよりも広い。なぜか古書も販売している。 それにしても、カフェが多くなっている。かつてレストランがあった場所が軒並みカフェに変わっている。カフェは十分にある。だが、そこに持って行くのは本ではないということか。 *** もし、読者が神谷町を訪れる機会があったら、コーヒーはテイクアウトして、行ってほしい場所がある。梅上山光明寺。本堂前にテラスが設けられていて、イスやテーブルを自由に利用することができる。斜面にそって木々に墓地がとけ込み、車の走行音は遠くに聞こえるだけ。落ち着いた雰囲気はまさに都会のオアシスであり、読書環境としては最高だ。 今回は葬儀のため入れなかったので、光明寺をあきらめて飯倉方面を目指す。 地図には載っていないが、坂の途中に「時尾書房」という小さな書店があった。ここで星野博美の『銭湯の女神』(文春文庫)を買った日のことは鮮明に覚えている。2003年の12月だから、ちょうど10年にもなるのか。「銭湯」「ファミレス」という視点から見る日本を、留学先の香港から帰国したばかりのキレキレの批評眼で切り取った名エッセイの数々。「すごい人が出てきたもんだ」と夢中で読み、その後、香港を旅した折、彼女のいた街を訪ねてしまうくらいファンになった。そんな思い出の時尾書房は、「ORANGE」と表記された事務所になっている。後で調べたら、あのくまモンで知られる小山薫堂氏の会社であることがわかった。飯倉交差点へたどりつき、角のコーヒーショップを見つけ、懐かしさのあまり入店する。ご主人は変わらずにそこにいた。よかった。コーヒーの酸味がかった味も、いまどきオール喫煙席なところも変わっていない。窓際の席に陣取り、交差点をぼんやり眺めながらコーヒーをすする。 最後は、東京タワーを左手に見ながら、さらに桜田通りを南下し、都営大江戸線の赤羽橋駅まで歩いた(写真6)。

(写真6)赤羽橋から見る東京タワー

(写真6)
赤羽橋から見る東京タワー

NENDAI WATANABE
PROFILE 1975年生まれ。栃木県佐野市出身。慶應義塾大学文学部卒。 出版社→フリーター→出版社勤務を経て、2007年アスラン編集スタジオに参加。 ライティングと編集に携わり現在にいたる。

※2014年2月発行の、ビジネスお役立ちマガジン「Aslan Plus vol.2」に掲載された記事の転載です。
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