アスラン編集スタジオ

起業家インタビュー03 クロスハーツ 上野みなこ 氏 2009.2.1

「普段の生活」からテーマを発掘ユニークな保冷材を販売する
金融業界でキャリアを積んだのち、未知の世界で起業した上野みなこ氏。
様々なことを乗り越えつつ、保冷材に新しい可能性を探ってきた経験から、
起業への思いを語っていただいた。

interview03

主な事業
オリジナル保冷材の企画・商品化、保冷剤広告の企画、保冷材雑貨等の販売
住所
東京都小金井市前原町4丁目12-21
電話番号
042-401-1867
サイトURL
http://www.cross-hearts.com/index.html

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自由な形の保冷材を作りたい!

学校を卒業後、銀行に入社して、17年間は金融業界で働いていました。
起業を考えるようになったのは、30代に入ってからです。
自分1人で身の丈に合ったことをやりたいと思うようになったんですけど、
金融の仕事で独立しようとは考えていませんでした。

普段の生活の中で、
みんなが不便に感じたり不満を持っているところに必ずチャンスがある。
そう考えて、常に「自分の生活の中で何かないかな」と気をつけて探していたんです。

そんなあるときに、新しい形の保冷材を作ることを思いつきました。
保冷材は、ケーキを買ったり、お総菜を買うと、いつもついてくるものなので、
特に女性にとっては、日常で身近にあるものだと思います。

私も、夏になるとペットボトルカバーの中に保冷材を入れているんですけど、
四角いものだとうまく中に入らなくて、
無理矢理押し込んで入れていたとき
「いろんな形の保冷材があれば、いいのにな」と思ったんですね。

「自由な形の保冷材を作ったり、
そこに広告を入れて配ったりできるんじゃないか」
というのがピンときたんです。

メーカーに体当たり

とはいえ、保冷材に関する知識は全くありませんでした。
だから、一からというより、ゼロからのスタートでしたね。

とにかく業界の人と話をして、
なんとかチャンスをつくらなければいけない。

そこで、日本で最大手の保冷材メーカーをホームページで調べて電話をかけて、
「こんなことを考えていて、これから会社をつくりたいからぜひお話を聞かせてください」
と、お願いしたんです。
そのときはまだ、単なる主婦でしたから、先方もびっくりしたと思います。

ただ、私の勢いに押されたのか、
担当者の方も快く「いいですよ」と言ってくださって、訪問させていただきました。

そのときいろいろレクチャーを受けて、
その企業自体も、いろんな形の保冷材に興味があったみたいで、
「協力しますよ」という形にはなったんです。
それで最初の商品を作りました。

けれども、先方も初めてであり、私も甘かったと言いますか、
印刷がうまくいかないことが、つくってから発覚してしまって…。
結局、かかった金額を折半する形で、振り出しにもどってしまったんです。

そのとき、すでに会社を設立していたんですけど、
まだ誰にも知られていないし、幸い注文もない(笑)。
そこからまた工場探しが始まりました。

下町に工場を発見する

商品をつくるために、
日本全国のビニール工場をメインに電話をかけました。
袋をつくる技術があれば、どうにかなると思っていたんです。

さんざん電話をして、ほとんど断られて、
あるとき新潟の印刷工場に問い合わせたところ、
東京で金型を作っている職人さんがいると紹介をされました。

その職人さんのもとを訪ねて、今までの経緯をお話したんですけど、
偶然にも、その職人さんの親戚がビニール屋さんだったんですね。
「ここから20分くらいのところにいるから、車で乗せて行ってあげるよ」
と言われて、そのまま連れて行ってもらったというわけです。

その結果、先方もいきなりのことで戸惑ったと思いますが、
渋々ながら協力してもらえることになりました。
その会社は印刷会社にも付き合いがあったので、
私が充填機を購入して工場に置くことで、商品をつくる態勢ができ上がったんです。

初めての注文がきた!

工場は見つかったので、今度は注文を取らなければなりません。

とにかく、「こういう保冷材もある」
というのを知ってもらうしかないので、
最初はケーキ屋さんの大手から電話をかけて営業を始めました。

それでも、注文が取れないまま起業した年は終わってしまい、
結構へこたれていましたね。
その間、工場も待っていてくれているわけです。
「契約はしているけど、注文がこないじゃないか。どうなっているのだ」と。

もうダメかもしれない、と落ち込んでいたところ、
初めての仕事となる注文の電話がかかってきました。

それが、あの有名な高級ホテルからの依頼だったんです。

実はそれ以前に、ホテルの工事現場に出かけて、
警備員のおじさんを通じて連絡先を教えてもらったことがありました。

そして、「ぜひサンプルを見てください」と送っていたんです。

依頼の内容は、ホテル内のショップで使うロゴ入りの
保冷材をつくるというものでした。

さっそく工場にも話しましたが、
まだホテルのオープンがあまり報道されていなかった時期です。

職人さんたちは仕事に取りかかったものの、
その高級ホテルのことはよくわかっていないようでした。

突然のトラブルを乗り越える

それからはドタバタでした。
3月1日に電話がかかってきて、ホテルのオープンが31日。
1週間前には用意してほしいと言われ、ものすごい勢いで商品をつくりました。

そして、もう余裕だなと思っていた3月21日に、
とんでもない電話を受けました。

商品に印刷したロゴと文字がずれているというんです。
私も舞い上がっていたので気づかなかったんです。
ずれたまま印刷されていて、全部でき上がっていました。

真っ青になって、どん底に落とされた気分でした。
いまさら、できないというわけにはいかない。
でも、このまま出すわけにはいかない。
しばらく考えて、工場にはつくり直しを指示して、
ホテルには正直なことを話して謝ることにしました。

翌日、無理矢理担当者のところに押しかけたんですけど、
その高級ホテルは、お客さまにはもちろんのこと、
業者さんに対しても、ものすごいきちんとしているホテルなんです。

だから怒ったりしないんです。
「とにかく、起きたことは仕方がない。
当日までに500~600個は保冷材が出るだろうから、
間に合うだけでいいから、できたものから持ってきなさい」と。

そして、オープンの3日くらい前に500個をやっと入れて、
当日までに1000個は納入できました。
当日を迎えて、本当にほっとしましたね。

オープンした当日にケーキを買って、
そこに保冷材を入れてもらって、工場に行きました。
その日はテレビでも報道していたので、
そこで初めて工場の人も「あんなにすごいホテルだったんだね」と、
ようやくわかってくれました(笑)。

周りの人も、
私が保冷材の会社をつくると言ったときに反対していて、
無理じゃないかと言われていたんですけど、
この仕事をやったときは、喜んでもらえましたね。

誰にも頼らず起業する

私自身、会社を退社後、
4年間は打ち込めるものがなかなか見つからなかったんです。
その間は派遣で保険会社に勤めたりしながら、
常に起業のテーマを探しながらすごしていました。

ゼロからスタートする場合、
何をやるかを決めるのは大変だと思います。
ここで多いのは、利益があがらないとぶれてしまうということです。
「これじゃなかったんじゃないか」
「他に儲かることがあるんじゃないか」となってしまいます。

そうならないためにも、
これというものが見つかるまでは、
やってはいけないと思っていたし、見つけてからやろうと思っていましたね。

開業資金に関しても、
投資をしてもらうことの重大さを重々わかっていたので、
自分の場合は人に迷惑をかけることがあってはいけないと考え、
「投資も受けないし、借金もしない、自分だけでやる」というのを
決定事項として起業すると決めていました。

私が起業したときは、
ちょうど資本金が1円からでも大丈夫になったので、自分の貯金で起業しました。

みなさん、お金があると事務所にかけたがると思います。
でも、固定費って一番削らなくちゃ行けない部分だと思うんです。
もちろん、私も最初から豪華な事務所をかまえたかったんですけど、
そこは削って、自宅で開業しました。
だから、比較的普通の会社よりはお金がかかっていないと思います。

現在の状況と将来の夢

現在は、法人企業向けだけでなく、
個人向けにもインターネットのショッピングカートを起ち上げて、
保冷材を販売しています。
商品は、自分で梱包して発送しています。

長期的に考えているのは、保冷材のあり方を変えるということです。
今、保冷材はケーキなどを買ったときに、無料でついてきますよね。
お店としては、やはり負担になっているわけです。
そして、お客さまとしては、無料だからもらっているけれど、
同じようなものがたまってしまうという悩みがある。

そこで、両者の利害をあわせて、
お客さまにかわいい保冷材を買ってもらうという方向に
変えていきたいと考えているんですね。

ローソクなどは、かわいいものをお客さまがお金を出して買いますよね。
その仕組みさえできれば、小売店さんも保冷材が利益に変わるし、
お客さまもほしいのを買うことができる。
それを広めて、スタンダードになるようにしていきたいと考えています。

リスクを最小限にする工夫

何事も、やはり考えているだけだと結果って出ませんよね。
行動してみないとわかりません。

起業したいと言う人はたくさんいると思うんですけど、
やはり自分で思ったら行動して頑張っていかないと、と思います。

それから、主婦の方はリスクを負わないことが大事だと思うんです。
世の中は成功した人しかスポットを浴びないですけど、
私はベンチャー投資の仕事をしていたときに、
挫折した人をごまんと見ているんです。
割合で言ったらそっちの方が断然多いですから、
とにかく無理をしないことですよね。

万が一、事業に失敗しても、
一生をダメにするような起業はしない方がいいでしょう。
男の人は比較的そういうのが多いんですけど、
女性は小さく産んで大きく育てるのが合っていると思います。
もちろんリスクを背負うのが起業だと思いますが、
いかにそれを最小限にするかという工夫も大切です。

また、人に迷惑をかけると、自分の気持ちの上で苦しくなります。
人から借金をしないとか、
リスクについて考えてから起業するのは大事だと思います。

(2009年2月1日発売 野村佳代著 会社づくりの現実とお役立ちポイント 掲載)

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